ナマケモノの飛行訓練

記憶のすべてがかすんでみえる。うろ覚えでつづるひこうくんれん。

真実の口に賭けて、すべて貧乏が悪いのか。

 (今回も完全にぼやきをとおりこしてなんならただの文句なので、スルーお願いします。)

 

 夕べはかのじょが仕事で遅くなったので、予定ではなかったのだがどこか近所のお店で食事をしようということになった。

 

 けっこうひどい雨模様だったので、ほんとうに近所がいいねおいしいパスタとか食べたいなワインが飲めるところがいいね、なんていいながら、目当ての店に向かったけれど、あいにくの祝日休み。

 それでそこから近くの何度か通ったことのあるコスパ安定のバルに向かうと、そちらもお休み。で、その界隈に二軒展開する店舗だったので、念のためもう一軒を覗いてみるがやはり閉まっている。

 

 さてどうするか。飲み屋街からは少し外れた場所だったので、この天気で飲み屋難民はつらいから適当な店に入ってみよう、新規開拓してみようそうしようという作戦になり、目の前にカジュアルフレンチという看板が目に入ったので、前から知ってはいたけれど、なんとなく店構えに魅力を感じなかったのでいつもスルーしていたその店に入ることになった。

 

 店に入ると二階へどうぞといわれ、カウンター脇の階段をのぼる。客はひとりもいない。やや不安な気持ちがよぎる。

 二階は壁が真っ赤に塗られていて、いちばん面積のひろい壁側は、天井からなぜかキラキラ光るビーズみたい飾りが一面にかけられている。

 だだ広い赤すぎる部屋の違和感に店側が気づいたのか、もともとそういうコンセプトでレイアウトしたのかはわからないけれど、一面に光るビーズはなんだか昭和の温泉宿の宴会場、もしくはバブル期のナイトクラブのようだ。

 壁には装飾もなにもなくて、ものすごい低い位置になぜだかとても小さな「真実の口」が掛けられていた。うむ、フレンチなのにローマ。なるほど。

 

 ↓こんなの。もう今回は絵も適当でいかせてもらいます。

f:id:flightsloth:20180918151535j:plain

 

 とはいえ、店の内装がわたしたちのセンスと合致していなくとも、大目にみることもやぶさかではない。料理やお酒さえよければぶっちゃけどうでもいいことではある。

 

 かくして女性の店員さんがやってきて、ニコニコしながらこういう。

 「当店はドリンクメニューがございません。」

 開口一番そんなことをいう。

 

 ん?メニューない?わたしたちは戸惑う。

 え、そういう店?高級店ってこと?大丈夫?あの小さな真実の口に賭けて?

 わたしはそんな心の声をすべてを飲み込んで絞り出すように訊ねる。

 

 「ええと、ワインが飲みたいのですけど。」

 それでしたら。店員さんは満面の笑みを浮かべている。

 「お好みを言っていただければ、ちょうどいいものをお持ちいたします。」

  「ワインリストはないのですか」

 「ございません」

 それもないのかぁ。

 

 ええと、どうしようか。

 「・・こだわりないんで、なんかハウスワインみたいのでいいんですけど」

 「・・ハウスワインもございません」

 わたしたちがむむむという顔を察して、店員さんは言葉をつづける。

 「けれど、お好みを言っていただければちょうど良いものをお出しいたします。」

 お好みねぇ。

 わたしたちは顔を見合わせて戸惑いながら、「じゃあ白の辛口の・・」と、口ごもる。いや、ほんとうにこだわりないんでいちばん安いやつをお願いします。

 

 かしこまりました。

 

 こえーよ、値段いくらよ、本当にお好みの出してくれるの?あのちっこい真実の口に誓って?わたしたちのお好みのワイン、それおいくら?あの店員さんどれだけワインに詳しいの?ソムリエですかね?あのブドウのエンブレムのバッヂは見当たりませんけど、大丈夫ですか?数々の疑問が頭をよぎる。

 

 しばらくすると店員さんが嬉々としてボトルを二本持ってくる。辛口ですと本日はイタリアのうんちゃらかんちゃらとアルゼンチンのなんちゃらをご用意しております。もともと銘柄にさほど興味はないのでなにも頭に入ってこない。

 立派なグラスに注いでくれたイタリアのうんちゃらを、わたしたちはおもむろにテイスティングする。 

 

 !!!!

 ほう。ほうほう。これはこれは。わかるぞ、貧乏人のばか舌でもわかる。これはわかるぞ。

 うん。

 これは明らかに酸化している。

 辛口というか渋いよ。すっぱいよ。

 

 わたしたちは舌で転がして味を確かめるような演技をする。なんとなく。余計にうんうん頷いちゃったりする。なんとなく。次に注がれたアルゼンチンのなんちゃらに一縷の望みを掛け、恐るおそる口を付ける。

 うむ、やはりこちらもやや酸化している。

 

 「どうですか?」店員さんは被せてくる。

 しいていうなら、しいていうならといってもこれはもはや好みではない。しいていうならアルゼンチンのほうが酸化していないかなぁ。そんな顔つきでかのじょがボトルを指さす。まあそうね。しかたないよね。

 じゃ、こっちでとわたしも指さし、その瞬間、スキを見つけたわたしは、

 「ちなみにボトルのいちばん安いやつはいくらくらいですか?」と訊いてみる。これで大体の店の相場もわかろう。

 「ボトルは・・」店員さんは思案している様子。

 ボトルは?

 わたしはみのもんたばりの憂を帯びた瞳で店員さんを見つめる。

 ボトルは?

 かのじょもみのもんたの目つきで食い入るように見つめる。二人の視線が店員さんにフォーカスされる。

 「ボトルは安いやつで5500円からですね」さらりという。

 ファイナルアンサー?

 

 ファイナルアンサー。

 ・・・

 ・・・

 ・・・残念。

 

 

 わたしは天井を見上げる。天井には一面にロココ調の宗教絵のようなものが描かれている。天使やらムキムキの神々やら賢人やらがざわざわしているようなあれだ。

 店内に入ったときは、その絵はマティス的、あるいはMOMA的なものを模したものが描かれているとおもっていたのだが、勘違いだったようだ。絵柄がお世辞にも上手とはいえなかったので、マティス的なMOMA的な現代アートだと勘違いしたようだ。

 

  ↓こんなやつ。さすがにこんなにヒドくはなかった。あ、いや、なんならこの程度だったかも。いや、考えれば考えるほどあの店の絵を驚くほど模写できている気がしてきたぞ。ものの5分で描いたけど。

f:id:flightsloth:20180918173801j:plain

 

  えー、高いよね?値段。ボトル5500円からって、高いよね。やっぱり高級店だよねここ。わたしなんてビーサンで来ちゃってるよ。いいの?ダメならいまからでも退場しますよ。

 えー先に言ってよー。それともこのくらいの値段設定はまだカジュアルの範疇なの?フレンチなの?真実の口に誓って?それともわたしたちが貧乏なだけですか神様。わたしは何度も天井を見上げる。

 

 それから辛うじて選んだアルゼンチンワインを待つことになる。因みにグラスは1杯850円とのこと。幸い、テイスティングで飲んだボトルがわずかだったので、新しいボトルを封空けしてもらえた。あぶないあぶない。

 

 さて、かるい軽食で済ませて一杯くらい飲んで帰ることにしますか、明らかに場違いですよねわたしたちは、ということになり、黒板に書かれたメニューを眺める。

 食事は値段が書かれている。とりあえずよかった。どれも割高だけれど乱暴な価格ではない。

 ただ、ここでもわたしたちにとって魅力的な料理は見つからない。如何せんメニューにサラダがひとつもないというのはいただけない。

 

 しかたがないのでなんとなく「牡蠣のアヒージョ」とパルマ産の「生ハム」を頼む。え、アヒージョ?生ハム?フレンチ?スペイン?パルマ?ナカタ?真実の口?イタリア?ここどこ?横浜?まあいいや。

 

 生ハムならば素早く出てくるとおもっていたけれど、なかなかやって来ない。危うく1杯目を飲み干しそうになるが、そうはいきますか。店の魂胆は見えている。この1杯で世界が終わるまで粘ってみせる。

 

 だが店員さんはものすごいオフェンシブに攻めてくる。「なにか飲み物お持ちしましょうか」二度の可憐なディフェンスで防いだところで、うっかり空にしてしまったグラスをみて反射的に、「じゃあビールを」といってしまう。まてよ、ビールっておいくら?

 

 そもそも他の客がだれもいない二階席、すぐ背後に常に店員さんがマンマークでひとり控えている。気まずいし、居ずらい。つい声も潜めてしまう。

 まるで防空壕に隠れているみたいにしてヒソヒソとふたり顔を寄せあうも、作戦会議はろくに練れず。今にも油断すると「お飲み物は〜」のキラーパスが飛んできそうだ。

 

 しばらくして 料理が運ばれてくる。いい値段なのでフワフワの綿あめみたいな口溶けの薄切り生ハムを想像していたけれど、シャケとばみたいに赤くてぶ厚い。注文を受けてから切りますと書いていたが、あの大仰な生ハム切りマシーンみたいなのやつで切ってはいないのだろうか。

 それに、分厚いのでずいぶん塩辛い。たぶんわりと良い品物の生ハムなので、本来、向こう側が透けるほどに薄切りにしてちょうど良い塩気になるのだろうけれど、いかんせんシャケとばなので塩辛い。

 

 いっぽうアヒージョはといえば、うん、ちょっと臭いよね。わかるし。海沿いと島育ちなめんなよ。青海苔の風味がかなり効いているのはいいが、これじゃあ牡蠣の臭みを消すための役割だけだとおもっちゃうよ。しかもやっぱり塩辛いし。バケット10個くらい欲しいよ。たった二つじゃ相殺できないよ。この濃厚凝縮オリーブ煮。これでお値段1,700円也。

 飲み物は意地でも頼むかとおもっているから、ビールもちびちび舐めるように飲む。だから余計に辛い。そもそもビールはおいくらなの?怖くて追加が頼めぬのだ。

 

 そんなこんなで、ひと息ついたわたしたちは、コソコソと作戦会議を再開する。ビール、900円はするんじゃないかな。だいたい全部で7千円くらいだろうね。テーブルチャージもつきそうだよね。覚悟を決める。

 再び「お飲み物は?」とアグレッシブに正面突破してきた店員さんに、わたしは「あ、お会計お願いします」と軽やかにいなすナイスプレー。

 伝票が運ばれてくるとわたしは素早くカードで支払う。かのじょが好奇の目を向けている。お値段はあとのお楽しみということで店をでる。

 

 店先まで送ってくれて、気さくに話しかけてくれた終始笑顔の店員さんにはもうしわけないけれど、かなり素っ気ない態度を取ってしまったとおもう。雨や止みましたねだとかなんだとか世間話をしていたけれど、こちとらそれどころでもない。早く二人きりにさせなさいよ、まったく野暮だねぇ。

 

 店を出ると、ただちに値段を知りたくてやや喰い気味のかのじょ。驚愕だよ。え、いくらいくら。わたしは少々もったいぶり、黄色い小さなレシートを手渡す。

 

 なんと、5千円。

 

 ん?かのじょもわたしもこの事態に処理し切れていない。レシートにはもちろん内約は書かれていない。

 え?5千円ぽっきりって、なにその場末のキャバクラみたいなキリの良い値段。しかも予想よりかなり安いって。これ計算するとビール450円くらいになっちゃうよ。いいのそれで。

 え、ビールだけは安かったってこと?だったらあの鮭とば生ハムで何杯でもいけちゃうじゃんね。だったらコスパ、安くね?ワインだけいいお値段って話?いやいやむしろなんでプチぼったくりじゃないの。いっそのことぼったくって欲しかったよ。何なんだこの気落ち。

 

 え、つまり高級店だとおもってたら、そうでもなかったでござるの巻?だったらなんでメニュー表つくらないの?ぜったいドリンク言い値じゃん。

 料理が塩辛いのも、結局は好みの問題だし、ひとによっては美味しいと評価するひともきっといるよね。なに?内装が絶望的に好みに合わないから先入観で構えてしまったってこと?こちとらプチぼったくりされる気、満々だったのに。なんでぼったくらないのよ。

 

 整理しきれない気持ちが走り出す。当然、もう一軒行こうという話になる。今度は信用できるバーに向かう。ちゃんとしたお酒を注がれて、この話題を肴に余計に盛り上がる。なんとなく行き場のない気持ちがあり、さらに中華料理屋にも行ってしまう。餃子なぞをばか食いしてしまう。

 

 すべては貧乏が悪いのか。あの店はさほどわるい店ではなかったのか。ひとの好みは十人十色なのか。

 

 だが、こちらとしても自戒の念は数あれど、あのテイスティングの酸化したワインの渋い後味と、そろそろ血糖値なんかも気にしなければならなくなった年齢のわたしや、次の日に塩分で顔がむくんでパンパンになってしまったわたしたちや、未だ口の中に残る塩気の気持ち悪さで昼食さえも食べられず、次の日までおもだるい気分を引きずらせてしまったわたしたちが、たとえウェブにリリースするとはいえ、こんな僻地のただの日記ブログ風情で、たしかに長文ではあるがそれでもささやかな文句のひとつやふたつくらい、店名も伏せたままなのだから、少しくらいぼやかせてもらったとしても、たぶん真実の口は噛みつきやしませんでしょう?ねえ神様。