ナマケモノの飛行訓練

記憶のすべてがかすんでみえる。うろ覚えでつづるひこうくんれん。

お盆すぎの怪談

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 こわいなー、ホラーですねー 

 

 お盆なので、怪談をすこし。 

 

 すっかり怪談創作にハマってしまいました。

 ええ、人気なくても続けますとも。

 

 怖いのが苦手なかたは読まないで下さい。

 【閲覧注意】

 ※前回、実力不足で続き物と勘違いされたこともあったので、とりあえず断っておきますが、すべて短編となっております。(カオリンさんごめんなさいっ!)

 

 

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 飛び込み

 盆休みに仲間と海へと出かけることになった。

 バーベキューに良い場所はないかと訊ねられ、奇しくも地元の海岸に行く運びとなった。出かける前に実家に寄ると、「盆だから海へは入るな、足引っぱられるぞ、」と子どもの頃と同じことを老いた母親に言われた。

 

 もし泳ぐなら金比羅様にお参りにいっておきなさいとも言われた。そのことを仲間に話すと、面白がり、皆でお参りに行くことになった。

 近所の神社の山道を登ったところに小さな祠があった。金比羅様といっても、その程度のものだった。わたしは祠の場所を伝え、バーベキューの支度があったので後輩と先に浜で待つことにした。

 

 浜はちょっとした橋を降りた場所にあり、橋の影になる適当な場所に陣取り、二人で支度をして皆の帰りを待つ。目を掛けている後輩なのだがその分、つい小言を言ってしまう。すこし要領が悪いのだ。買い出しを任せたのも間違いだった。肉と野菜の分量もおかしい。アルコールも甘いものばかりだ。ビールがほとんど無い。

 プライベートなのでそこまでうるさく言わないように、それとなく伝えたつもりだったが、ふてくされてきたので、「そういう所がいけないんだよ」とつい声を荒げてしまう。

 

 仲間が戻ってきて、しばらくはしょげていた後輩も明るさを取り戻してくる。少々悪いことをしたかなと思う。

 腹も膨れ、酔いも回り、それぞれがばらけて思い思いの遊びをする。ビーチバレーをしたり、海に入るものもいる。「足引っぱられた」海から戻ってきたものが冗談をいい、「お参りしたから助かった」と、私を茶化したりする。

 

 私は何気なく橋を見上げる。橋の両たもとは海岸だが、中腹までいくと次第に水深も深くなる。

 「子どもの頃にはよくあの橋の真ん中から飛び込んだよ」私がそう言うと、皆も同じように橋を見上げる。

 「5メートルはあるね」「すごいですね」「勇気あるなぁ」

 関心されて良い気になっていると、それは嘘だと言われる。嘘じゃない。確かに私は幼少時代、この橋から飛び込んでいた。

 だが、この言葉を切っ掛けに、誰もが疑いだす。

 「いや、たしかに無理だよな」「高すぎるでしょ」「いくらなんでも信じられない」

 私は少しだけムッとする。というのも、はじめに疑い出したのが、他でもない可愛がっている後輩だったからだ。「いや、ホントだって!マジだよ!」それで私もついムキになってしまう。

 

 「じゃあ飛び込んでみてくださいよ。」

  後輩がニヤニヤ笑いながらそう言う。酔った仲間達もはやし立ててけしかける。私は頭に血がのぼってしまう。「いいぜ、飛び込んでやるよ」吐き捨てるようにそう言い、私はひとり橋のたもとに歩いていく。

 

  橋の中腹に着き、したを見下ろす。思ったよりも高い。目眩がする。酒も飲んでいるので心配だ。そもそもこんな高所から飛び込んでいたのだろうか。子どもの頃の私が?自分自身の記憶を疑う。

 戻ろうかと思う。あれこれと言い訳を探す。ずいぶん大人げなかったし、馬鹿げていた。戻る決心をして浜辺を見下ろすと、未だに仲間達がはやし立てている。皆、腕を上下して、早く飛び込めとあおっている。ふたたび頭に血がのぼる。いいさ、飛び込んでやるよ。独りごちる。

 柵を乗り越えて縁に立つ。水面は黒々としている。水深は十分だ。

 

 勢いをつけて飛び込もうとした瞬間に、背中を捕まれた。バランスを崩してあわや落ちそうになるがなんとか踏みとどまる。振り向くと仲間のひとり立っている。

 「おまえ!なにやってるんだ!」

 血相を変えている。少々唖然とするが下をのぞき込むと、全身に鳥肌が立つ。

 そこには海なんてものはなく、まばらな砂浜と岩礁がひろがっていた。あたりを見ると、私の立つ場所はまだ橋の中腹には達していなかった。

 海岸をみると、他の仲間達も、海水浴を楽しむ別の客も、皆真顔でこちらをみていた。

 

 止めてくれた仲間が言うには、私が急にフラフラと歩き出したので、心配になって付いて来てくれたらしい。私の記憶とは随分違っていたが、黙っていた。ずいぶん酔っ払ってしまっていたのかもしれない。

 砂浜に戻ると皆が心配してくれていた。私は一通り謝ったり、酔っていたとおどけたりして、その場を凌いだ。すぐに皆は安心してバーベキューを再開し始めた。

 

 だが私は見ていた。皆の騒ぐ喧騒に隠れるようにして後方にたたずむ後輩の、憎悪に満ちた目つきを。

 そして、背を向け去って行く彼の、チッ、という明らかな舌打ちが、不思議なくらいにはっきりと聞こえていた。

 

 

 

(伝聞をもとに創作)

 

 

 

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 コンセント

 3歳の息子が部屋で、天井を見つめてなにやら話しているので、不安に思って夫に相談すると、笑いながら、子どもにはよくあることだと言っていた。

 それで少し安心していると、今度は寝室のコンセントにあらゆる家電のプラグを差し込むようになった。

 

 扇風機やトースターや電気ポットを、わざわざ別の部屋から持ってきては、差し込むのだった。

 どうしてこんなことするの?と訊くと、「あぶないから」と言う。何が危ないのか訊いても、なにも答えずに、また天井を見上げてぶつぶつ呟く。

 「お友達?」と訊くと、息子は首をふる。「お友達、飛んでるのかな?妖精さん?」息子は再度首を振り、「おかあさん」と言い、それから、「せまいって」と言う。

 せまい?部屋が?

 聞き返してみてもみても同じようなことを言い要領を得ない。

 

 私はすこし不気味になって、夫が帰宅するとすぐにそのことを報告する。

 夫はまた笑いながら、

 「プラグの出っぱりが危ないとおもってるんじゃないか?」と言う。

 「もしかしたら君が寝室でコンセントプラグを踏んづけて、痛がっている様子を見てたのじゃないかな?それで、危ないから片っ端からプラグをコンセントに“しまって”みてるんじゃないか。」

 一理あるとおもった。息子は優しい子だ。プラグを踏んだ記憶はなかったが、私が忘れているだけなのかも知れない。以前にアイロンのプラグかなにかを踏んで、痛がっていた所を息子は見ていたのかも知れない。

 

 ある日、風邪をひき、熱が出て寝込んでしまう。

 夫は出張で今夜は帰って来ない。何とか息子の食事だけは済ませたが、それ以外のことは構っていられず、ベットに伏せってしまった。

 

 熱に浮かされ意識が朦朧としているなか、近くに息子がいる気配を感じた。

 相変わらず息子は天井を眺めて何かを話していた。意識が飛び飛びになり、目を覚ましても息子が側にいるので、安心して眠り込んでしまった。

 

 目を覚ますと、髪を何かに引っ張られる感覚があった。息子のいたずらかとおもっていたら、息子は私のすぐ横にいて、未だに天井を眺めていた。

 

 気がつくと足も何かに引っ張られているようだった。

  全身が動かなかった。金縛りにあっていた。首だけでなんとか動かしてみると、髪の毛になんだかわからない黒い物が絡みついている。混乱しながら足下をみると、足首にも同じように黒いものが絡みついている。

 

 その黒い物は、コンセントの奥から飛び出していた。

 叫び声を上げるが声にならない。

  部屋でドタドタと音がするので、眼だけで辺りを見回してみると、なんと息子が家中の家電を持ち出して、必死にコンセントに差し込んでいるではないか。

 

 息子がトースターを持ち出して、プラグを差し込もうとするそのとき、コンセントからニュルニュルと黒い物が這い出してきているのがみえる。

 あぶない!

 叫んだつもりが声にならない。

 

 なんとなしなければ。

 体中に力を込めるがぴくりとも動かない。首だけが自由になるが声がでない。焦りと恐怖と息子に迫った危険で、よりいっそう混乱していく。息子を助けたい気持ちだけで意識だけはなんとか強く保つ。

 

 ところが急に息子が天井を見上げる。

 すると、辺りが真っ暗になる。次から次に理解できなことが起こる。正確にいえば真っ暗になったわけではない。息子の目の前に突如として、巨大な黒い人型の影が突然現れたのだ。

 

 混乱と恐怖で気を失いそうになるがなんとか踏みとどまる。

 息子を助けなくては!

 体中に力を込めるがやはり動かない。

 

 人型の、纏った影が少しずつ剥がれていくのがわかる。素っ裸の人型の“それ”は寝室中にぎゅうぎゅう詰められ膝を曲げて座り、首も天井で窮屈そうに折り曲げている。

 顔面を覆っていた影が剥がれる。私は悲鳴をあげるがやはり声にならない。

 その顔は、なんと私の顔をしている。

 いや、顔ばかりではない、よくみれば身体も私そのものだ。巨大な裸の私がぎゅうぎゅうになって寝室に座っている。

 

 「おかあさん」

 天井にべったりついて折れ曲がっている私の頭に向かって息子がいう。

 

 私はわけの分からない奇声をあげる。そしてその声はついに音になる。

 同時に巨大な私も咆哮をあげる。あきらかに人の声ではない。

 船の汽笛のような重く低い音だ。猛烈な音が部屋中に響く。

 

 それから巨大な“私のようなもの”は口を大きく開け、もの凄い吸引力であたりを吸い込みだす。

 部屋中のコンセントから黒い物が吸い上げられる。嵐のようなつむじ風が巻き起こり、みるみる間にその黒い物が、巨大な私の顔の前に一瞬にして集まる。

 そして、巨大な私は、躊躇なく、それを一気に飲み込んだ。

 

 部屋は何事もなかったかのように静まりかえり、私はそこで気を失う。

 

 目を覚ました時には、息子は私の側で静かにおもちゃで遊んでいた。黒い物や巨大な私のことをそれとなく聞いてみたが、首をかしげるばかりだった。寝室のコンセントにも、何も刺さっていなかった。

 

 全てが夢だったのかもしれない。それはいまでもわからない。

 ただ、息子がそれからコンセントに興味を示すことも、天井を見上げることも、まったくしなくなったことだけが事実としてあった。

 

 

 

(伝聞をもとに創作)

 

 

 

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知った顔

 東北のほうに出張に出向いた。用事も早々に済ませてしまい、得意先に挨拶回りをしてみたが、思いの外、時間を持て余してしまった。繁忙期もすぎた暇な時期、戻ったところで大した仕事もなさそうだった。

 上司に連絡してみたら、ゆっくりしてこいと言われたので、言葉に甘えることにした。暑さで喉もからからだった。ビジネスホテルに荷物だけ置いて、すぐに飲みにでも出かけようとおもった。

 

 チェックインを済ますためにフロントへ向かうと、カウンターに立つ従業員の顔が、どうも見覚えのある顔だった。初めて泊まるホテルだし、そもそも初めて訪れた土地だ。そんなはずはなかろう。記憶の奥を探るが、どうにも思い出せそうにない。

 

  とりあえずざらりと繁華街らしき一郭を一周して、腹がへったので腹ごしらえを済ませてから、飲み屋に入ろうと思った。

 チェーン店の牛丼屋に入ると、またしても店員が見知った顔のような気がする。何気なく何度ものぞき見たが、やはり誰かに似ている。

 

 のっぺりとしてなんの特徴も見出せないような顔つきだった。誰かに似ているかと言われれば、そうかもしれないし、また誰にも似ていないようにも感じる。だが、みれば見るほどに、見知った顔のような気がしてくるのだった。

 

 店を出てみてから、ハタと思い出した。

 そうかあの店員は、ホテルの従業員とそっくりだったのだ。牛丼屋の店員は男性で、ホテルのほうは女性だったが、たしかにそっくりだった。

 のっぺりとして特徴の無い顔つきだが似ているということだけは、はっきりとわかった。兄妹かなにかなのだろうか。

 

 何となく引っかかるような気持ちは残ったが、とりあえず最寄りの赤提灯に入る。店内はずいぶん繁盛している。ビールを頼み一気に飲み干すと、なぜだかどっと疲れが押し寄せてきた。

 二杯目を注文しようとして、店員を呼んだところで驚愕した。こちらにやってくる店員の顔も、先ほどの牛丼屋の男とそっくりだった。

 わけもわからず心臓がばくばくと鳴った。落ち着こうとタバコに火を付けて、もしやと思いあたりを見渡すと、やはりいた。廻りの客の中にも、同じ顔がいた。

 

 頭がどうにかなってしまったのだろうかとおもうと、冷や汗が出てきた。身を縮めて再び店内を見渡す。ほとんどが同じ顔をしているような気がする。髪型や帽子や性別の違いではじめは気がつかなかったが、店員も客も、同じ顔をしているに違いない。

 

 逃げるように店内を出た。目眩がする。汗で背中がぐっしょりだ。追い立てられるような気持ちでふらふらと走った。

 人気の無い場所に来ると、次第に落ち着きを取り戻してきた。疲れていたのかもしれない。疲れと混乱によるものだったのだろう。

 自分にそう言い聞かせるように呟いていると、本当にそうだったような気もしてきた。その証拠に、あれほど沢山見た同じ顔がどういう顔だったのかすら、もう思い出せやしなかった。

 

 ひどく喉が渇いていた。一杯だけ飲み直そう。薄暗い通りにスナックの明かりがみえた。扉を開けるとカウンターの暖簾の奥から、いらっしゃい!と快活にママの声だけが聞こえた。客はひとりもいない。なんとなくほっとする。

 ママは明るい声で気さくに話しかけてくれ、初めての店だとは思えないほどにくつろげる雰囲気がある。

 なんだか安心して、気がつくと先ほどの奇妙な出来事を一気に語っていた。

 「まぁ、狭い町ですからね、町の人間も同じような顔に見えるのかも知れませんね。」

 「そういうものですかね。」

 「そういうものですよ。」

 「いや、わたしがただ、疲れていたのでしょう。」

 カウンターの奥でママがふふふと笑った。

 ビールでいいかしら。お願いします。でもどういう顔だったのでしょうね。いや、どうにも特徴のない、なんとも言いがたい顔でした。

 奥でまた、ふふふと聞こえた。

 

 「もしかしてその顔というのは・・・」

 

 嫌な予感がした。額から大粒の冷や汗が流れた。席を立とうとして椅子から転げ落ちた。あらあら騒々しいと、ママの声が近づいた。

 店から飛び出る一瞬に顔がみえた。

 やはりあの顔だ。

 のっぺりとしていて、青白い顔で切れ長の一重まぶたのこの顔だ。

 薄い唇の隙間から、ふふふと笑い声はするが、瞳は笑っていない。

 

 

 一夜明け、帰りの新幹線に乗りこみ、一息つくと、もはや観念した気持ちになった。

 頭が痛む。

 夕べのことは夢かと思ったがそうではないらしい。

 その証拠に、車中にいる人間のすべてがあの、同じ顔をしている。

 

 会社へは寄らずに直帰する。妻が出迎えてくれる。やはりあの顔だ。どうにも特徴のない、のっぺりとした顔だ。もう見慣れてしまっている。恐ろしくも何ともない。

 それどころか、夕べから散々見てきたこの顔が、元々の妻の顔だったような気がしてくる。ならばどうしてこんな女を好きになったのだろう。

 

 もうすぐ子どもが産まれる。男でも女でも、おそらく同じ顔をしているだろう。のっぺりとしていて、色白で切れ長の一重まぶたをした、唇の薄い顔。

 

 だとしたら、果たしてわたしは我が子を愛せるだろうか。

 そんなことを、ふと、思う。

 

 

 

 

小泉八雲「狢」より着想を得ての創作)

 

 

 

 

 

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 これでナマけものの夏の怪談はおわります。 

 ちなみに夏の短編怪談は三部作になっております。

 他の怪談も読んでいただけたら幸いです。

 

flightsloth.hatenablog.com

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 それでは、いつかどこかでまたあいましょう。

 

 こわいですねーホラーですねー

 サヨナラ、サヨナラ。