ナマケモノの飛行訓練

記憶のすべてがかすんでみえる。うろ覚えでつづるひこうくんれん。

真夏の怪談

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 夏といえばこのひとではないでしょうか。え?誰だって?誰でしょう。

 

 ここのところの暴力的な猛暑はおさまったようですが、おそらくまだまだ暑い夏が続きますので、引き続き怪談をすこし。 

 

 ええ、また怪談ですよ。ごめんくださいな。さいきん凝ってるもので。

 

 マイナス100度の太陽みたいに身体を湿らす怪談になればとおもいます。

 四六時中も怖いといわれたいです。

 

 怖いのが苦手なかたは読まないで下さい。

 【閲覧注意】

 

 

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帰れない

 田舎町のさらに山奥に入った場所に廃村があった。いわゆる消滅集落だった。

 昼間はただの廃屋の集まりだが、夜になればそれ相応の不気味さがあり、若者達の間で心霊スポットとして噂されるようになるのも、ごく自然な流れだった。

 

 その夜も、車で訪れた男女二組のカップルが廃村へと入り込んでいった。

 四人は村のはずれで車を降り、とりあえず中心を目指して歩こうという話になった。一人は幽霊なんてまるで信じないというタイプの恐れ知らずの男で、何も怖れずに、ずいずい進むので、他連中は多少の文句を言いながらも、その男に従って歩いた。

 

 はじめは剥がれたトタン屋根が風に鳴る音や、枝葉の落ちる小さな音に三人が逐一反応して騒ぎ立て、少しも先へ進まずに、怖れ知らずの男が苛立つような場面もあったが、次第に馴れてくると、カップル特有の騒がしさを伴いながらも、順調に村の中心へと入っていった。

 

 先行した男が何も起こらないことに飽きてきた頃、村の中心付近に小さな公園を見つけた。

 そこには錆びたブランコがあった。風のせいかわずかにキィキィと鳴っていた。

 公園は低い生け垣で囲われていた。尻込みする三人を無視して男は公園の入り口を探した。

 やがて、入り口見つけたぞという男の叫び声が聞こえたので、取り残されていた三人は、大袈裟に騒ぎながら声の方へと向かった。

 

 三人が入り口に到着した頃には、男はすでに錆びたブランコに腰掛けようとしていた。

 すると、その姿をみた三人は、突然血相を変え、一斉に叫びだした。三人の声は示し合わせたかのように揃っていた。

 男は一瞬ギョッとなり、手にかけていたブランコの鎖を素早く手放した。

 だが三人は鬼気迫る表情で同じ言葉を叫び続けた。

 男の顔がみるみるうちに真っ青な顔になっていった。

 それから男はやにわにもの凄いスピードで走り出し、入り口の三人をこえて、一目散に車の方へ逃げていった。

 それを見た他の連中も混乱しながら後を追った。

 男は車のエンジンをかけて待っていた。三人が乗り込むと黙ったまま車を走らせた。

 

 明るく人の多いパーキングエリアに着くと、三人は堰を切ったように話し出した。

 「あー、怖かったね!」

 「うん、怖かったねー!でも何か見えた?」

 「いや、見えてはいない。」

 三人とも、何かを見たというわけでもないらしい。しかし、あの錆びたブランコに座ろうとする男を目の当たりにした途端、なぜだか、そこに座ってはいけないという猛烈な危機感が襲ってきたという。

 「それで、必死になってねー、」

 三人はうなずきあう。

 「“座っちゃダメ!帰れなくなる!”って叫んだの。」

 「そうそう。でもまさかピッタリ一語一句同じ言葉が一斉に出るなんてね。」

 「ホント、不思議なシンクロだよね」

 

 三人は男がブランコに座らなかったことを、本心で安心していた。そして、三人の内に突然芽生えた霊感のようなものを誇らしく思うのだった。三人は男を救った共通意識を喜びあった。

 しかし当の本人は未だに青い顔をして黙り込んでいた。

 三人は盛り上がったまましばらくはその様子に気づかずにいたが、やがて男の恋人が不審に感じて、

 「どうかした?」と訊くと、男は「違う」とぼそりと言った。

 三人は顔を見合わせた。

 「違う。」男は繰り返した。

 「お前らが一斉に叫んだ言葉はこうだ」

 男は自分の両肩を抱き震えながら言った。

 

「“さっさと座れ。お前はもう帰さない”」

 

 その声は、三人ともども、老人のようなしゃがれ声だったという。

 

 

 

(実体験をもとに創作) 

 

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甘いにおい

 彼女とユカは幼馴染みで、同じマンションに住んでいた。

 中学生になり、いまでこそ互い仲良しグループが違うので、一緒に下校することはなかったが、マンションのロビーなどでばったり会った際には、奥の階段に座り込み、そのまま話し込むことも珍しくはなかった。

 

 その日の夕方も二人は座り込み、学校やテレビ番組のおしゃべりをしていた。古いマンションなので、ところどころ壁の塗装も剥がれ、小さくひび割れていた。

 ほかの住人に叱られないようにひそひそと話し込んでいたが、狭い階段はよく響いた。剝き出しのコンクリートの階段は、夏場にはひんやりとしていて居心地がよかった。時々冷たい風がどこからか吹き込んできた。

 

 彼女はユカのことをとりわけ好きでもなければ嫌いでもなかった。というよりもユカは物心ついた時からすでにそこにいて、あまりに当たり前の存在なので、そういう感情すら意識したことがなかった。また、ユカも自分のことを同じように感じているという気持ちが、彼女には手に取るようにわかった。そして、それが心地よかった。

 

 ユカと話していると、自分の記憶と混同することがあった。幼い頃の自分の体験談を、ユカは時々、さも自分の記憶のように語るのだった。とはいえ、彼女さえも、それが果たして本当に自分の記憶なのか、それともユカの本当の記憶なのか、判断出来ないことも多々あった。

 

 ところが今日のユカは、彼女のまったく知らないことを言い出すのだった。

 「ねえ、ここの地下に住んでたアヤコちゃん覚えてる?」

 「え?誰?」

 「だからこのマンションの、この階段の下のアヤコちゃん。ほらわたしたちと同い年の、いたじゃない」

 「・・それいつの話?」

 「んー。幼稚園とか、小学校一年生くらいかなぁ」

 妙な話だった。 確かにこのマンションには地下がある。けれどそこは倉庫のようになっていて、掃除用具やら備品やらが収納されているだけだ。どう考えても居住スペースなどはないはずだった。

 数年前、管理会社の説明会かなにかの手伝いを母親づてに頼まれ、その地下の部屋にしまってあるパイプ椅子を運んだことがあった。だからその部屋のことを、彼女ははっきりと覚えていた。

 彼女がそのことを伝えると、ユカは本心で驚いた様子を見せた。

 「それは、ほら、今はそうかもしれないけど、前は奥に部屋があって、」二人でよく遊びにいったという。アヤコちゃんの両親にも何度も遊んでもらったともユカはいう。

 

 からかっている様子ではなかった。逆に、彼女がまるで覚えていないという事実を、ユカは本心で驚き、不審がるのだった。

 「わたしははっきり覚えてるよ、この階段を下るとほら、赤いふかふかした絨毯が敷いてあって、アヤコちゃんの家に通じてて」

 いくら言われても少しも思い出せなかった。そもそもなんで地下なんかに住んでいたのだろう。彼女がそのことを問うと、

 「だってほら、アヤコちゃんち、このマンションの管理人さんだったからじゃないの」と、あっけらかんという。彼女はすこし考えたが、やはりなにひとつとして記憶を拾うことはできない。

 

 「本当に思い出せない?」ユカは少し寂しそうな顔をした。

 「こうして今みたいにわたしたちが二人でロビーで遊んでいると、甘い匂いが漂ってくるの、それでわたしたちは顔を見合わせて、喜んで階段を降りていくの。

 それで、アヤコちゃんのところにいくと、アヤコちゃんが扉を開けてくれて、部屋に招いてくれて、それでいつもアヤコちゃんのお母さんが自家製のキャラメルを作ってて、いつもわたしたちに振る舞ってくれて、それがすごく甘くておいしいの!」

 そこまで話して、ユカは彼女の顔を不安そうに窺うのだったが、やはり彼女は何一つ思い出せず、ただ首だけを傾げると、ユカはとても残念そうな表情で、「仲良しだったのになぁ」と呟いた。

 

 少しの沈黙が流れた。二人は地下へと続く階段を見やった。そこは、現在は重いパーティションのような囲いがされていて、普段は入れないようになっていた。

 彼女は、ユカが降りてみようと言い出すのではないかと少し恐れたが、ユカも同じ事を考えていたようで、「ねえ、まさか降りてみようなんていわないでよね、」とすこし震えた声で逆に訊いてきたので、彼女は少しだけ安心するのだった。

 

 「でもさ。」彼女は肝心のことを訊くの忘れていたことに気がついた。

 「だったらなんでそのアヤコちゃんはこのマンションからいなくなったの?引っ越した?」

 彼女がそう訊くと、「え!?」と、ユカは少し驚いた様子をみせたが、すぐに落ち着きを取り戻し真剣な顔で彼女に向き合い、

 「じゃあ、あの地下の火事のことも覚えていないんだ・・・」といった。

 

 首筋に鳥肌がたつのがわかった。

 「それじゃあ・・」と彼女が言葉を濁すと、

 「あー、ゴメン!」とユカは大きな声で遮って、そうじゃないそうじゃない、と両手を大きく震わせる。

 「火事はあったけど、アヤコちゃんもご両親も無事だったの、でも、家のものは全部焼けちゃったから、住めなくなって、それで、」

 それで?ユカは、うーんと唸って、たぶんそれからどこかへ引っ越した、と付け加えた。ユカもその後のアヤコちゃん一家の行方は覚えていないらしい。

 

 会話は中途半端だったが、切り上げることにした。「もう夕飯の時間だから」まだ何か言いたそうなユカを振り切るようにして立ち上がり、そのまま階段を駆け上がって家へと急いだ。やはりどうしても少し気味が悪かった。

 家へ戻り、ユカとの会話をすぐに母親に訊ねようとしたけれど、なんだか暗い話題になりそうなのでそれは止した。母は何だか楽しそうだった。鼻歌をうたいながら料理を作っていた。父親はまだ帰ってはいなかった。すこし甘いにおいがした。

 

  夕飯はまだだったので、先に風呂に入ることにした。湯船に浸かって考えてみても、アヤコなる人物を思い出せそうになかった。それにしても地下に住むなんておかしい。そのうち母親に訊いてみようとおもった。

 

 ところが、ぬるめの湯に浸かりながらウトウトしていると、急激に記憶が蘇ってきた。ユカの話どおりの記憶。階段を下りる。赤い絨毯。窓のない部屋。キャラメルのにおい。先ほどユカと話した会話が、頭の中で奇妙な既視感を伴って、ぴたりぴたりと重ね合わさっていった。

 

 しかし彼女の記憶には、ユカとはあきらかに違う部分があった。もちろん他人なのだから完全に同じ記憶を共有しているわけではないだろう。はじめは彼女もそうは思ったのだが、どうにもそれだけでは納得できない矛盾のようなものを感じた。

 彼女はその矛盾が、果たして自分の記憶に依るものなのか、ユカに依るものなのか、わからなかった。彼女は反芻するようにして、もう一度記憶を辿ることにした。

 

 私はひとりロビーにいる。

 どこからかキャラメルのにおいがする。

 私は喜んで階段を下りていく。長い長い廊下。赤い絨毯。その先にある扉。

 私が近づくと、ゆっくりと扉が開く。開いた扉の奥から知っている顔が覗く。

 そう、そこにはユカがいる。ユカがにこにこ笑っている。

 私に向かって笑いかけ、手招きをしている。

 

 何かがおかしい。

 急に目眩がして視界が狭まる。景色がぐらぐらして歪んでくる。気を失いかけ湯船でおぼれそうになるがなんとか立ち上がり、裸のままでよろよろとリビングに向かう。地下の部屋にはユカが住んでいる。何かがおかしい。

 

 リビングも歪んでいる。壁も、壁に掛けた絵も、花瓶も歪んでいる。髪の毛からぽたぽた滴る水滴を辿って足もとをみる。フローリングも歪んでいる。身体が熱い。なんだか甘いにおいがする。

 

 楽しそうにキッチンで料理をしていた母が私を見つけ、驚いた顔をする。

 あわててこちらに駆け寄ってくる。

 「ちょっと!あんた大丈夫!?そんな格好で、顔が真っ青じゃない」

 母は慌てている。こんな表情はみたこともない。

 身体が熱い。座り込みたいとおもうがそれも出来ない。身体が硬直している。なんだか甘いにおいがする。そのにおいだけが妙に現実味をおびている。

 

 これはキャラメル?

 母にそう訊こうとするが、声も出ない。代わりにうめき声のような声が漏れる。

 「・・・・ユカが・・」

 母はポカンとしている。それから急き立てるように言う。

 「ユカ?誰?誰よそれ?ユカって誰?そのひとがどうかしたの!?」

 母が動揺している。何かがおかしい。

 ユカを知らない?そんなはずはない。ユカは私の幼馴染みじゃないか。

 母の声は動揺を通り越して怒鳴り声みたいになっている。

 それから母は言う。

 「ちょっと、アヤコ!しっかりしなさい!」

 アヤコ。

 

 そうだった、私がアヤコだ。

 

 歪んだままの景色が剥がれ落ちる。壁紙も花瓶も絵も、赤くなって剥がれていく。すべてが天井に向かって流れていく。

 母は真剣な顔になってなにかを言っている。

 「いま・・」声が遠い。

 「タオルをもってくるから・・」聞き取りづらい。

 いまタオルを持ってくるから。

 ああ、そうか、それがいちばん良い。とても良いアイディアだとおもう。もうなにもおかしいことなんてない。ユカなんていないんだ。

 「いま“濡らした”タオル持ってくるから、アヤコはここにいなさい。」

 母の顔がもう真顔になっている。けれど少しだけ悲しい顔をしている。 

 私は気を失う。キャラメルの焦げたにおいが鼻につく。

 

 

 

(伝聞を元に創作) 

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  あと少しだけありますが、背後が気になってきたので、今日はこれくらいで。

 それでは、次はお盆にでもまた逢えたらとおもいます。

 

 こわいなーこわいなー

 ハラボー!