ナマケモノの飛行訓練

記憶のすべてがかすんでみえる。うろ覚えでつづるひこうくんれん。

ゴールデンウィーク、七つの。

 

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*強欲

 午後一時川崎大師集合。米国から一時帰国した友人Hがなにやら厄払いをしたいというので集まる。10年以上も向こうで過ごしている彼は、すっかりマインドもアメリカナイズされている様子。みやげ物屋や屋台を物珍しそうに見物した挙げ句、だるまが欲しいとのこと。

 日本人というよりもまるきり日系アメリカ人。服装から体型からなにから。ロスからダラスに拠点を移し、自分の店を持ちそれなりに成功すると、なにかとゲンも担ぎたくもなるらしい。いや彼の場合はスピリチュアルな要素も取り入れる、といったほうが的確か。

 「このあいだクリスタルのドラゴン買っちゃったもんね」なんじゃそりゃ。「ああ水晶の竜だよ」彼は言い直す。なんじゃそりゃ。「いやだから中国の龍だよ」余計になんじゃそりゃ。それでこんどは大師様?ここ真言だろ。だるまだって禅宗だぜ。まあいいのいいの縁起もの。そういうもの。

 

*傲慢

 本殿前。いなくなったらいなくなるタイプの友人Nが束ねられた線香をもっている。「半分わけてくれよ」と幼馴染みのTがいう。「ばかいうな、買わなきゃ御利益ないぜ。」「じゃあ百円貸して」とHがいう。

 「ダラスまで取り立てにいくぜ。」みんなで線香に火を付ける。これでもかと一本残らず火を付ける。これでもかと煙を浴びる。

 賽銭を入れる。祈る。祈っても祈っても、Nがいう。「祈り足りねえな。」ビジネスビジネスとHが両手をすり合わせる。

 「千円いれたの見ただろ。おれがいちばん御利益あるだろ」とわたし。「金じゃねえよ神さまは」「あ、二時半からちゃんとした厄払いしてくれるみたいだよ。どうする?」「いや、いい。もうビール呑みたい。」「蕎麦屋あったな。」いいねぇと一同。
 
*暴食

 場所を移して天神町。「渋いとこ選んだね。」テレビマンのYも合流。仲間のうちで唯一の子持ち。三児の父親。「うまい焼き肉屋があるんだよ」とN。

 縁もゆかりもない街に同郷の男を4人も連れてくるだけあって、たしかにものすごく美味しい店。ベイスターズ選手のサイン色紙がぴっしりと貼られている。料理が運ばれてくる度に、生でも喰えっから、生でも喰えっからとうるさいN。まだ5時だよ、まだ6時だよ、なぜか時間のカウントをするT。こいつはなんなのだろう。嫁から解放された休日を噛みしめているのだろうか。

 普段焼き肉などほとんど食べず、脂っぽいものを胃袋に入れると翌日が大変なのもわかってはいるが、わたしもついつい食べ過ぎてしまう。


*色欲

 じゃあ次はどうすっか。知らない街をもてあましてしまうので桜木町までタクシーに運んでもらう。野毛から宮川町をふらつく。

 「どうする?橋わたっちゃう?」橋の向こうは寿町。ピンク色のネオン街がつらなる。まんざらでもない顔つきのH。「なに?どこ行くの?ピリピン?ロシア?ベラルーシ?」いやいやニポンがいいよ十年ぶりだぜとH。ムリムリと一同。ゴールデンウィークだからね。入れないよと入る気も無いくせに。

 結局インターバルと作戦会議にと、めちゃくちゃ音の良い大きなスピーカーのあるジャズ喫茶でアイスコーヒーを飲んでいる。なんなんだこの展開。いや毎度のことだね。なんだかんだでわたしのかのじょも合流。「男同士でわぉわぉするんじゃなかったのかよ。」「まあ今度は嫁さんも連れてきなよ。」そうだねそうするよと夜も更ける。つぎはもんじゃでも行こうか。


*怠惰

 翌日は例の如く胃腸を崩す。二日酔いはないがカラオケにいったので少々喉が痛い。衰えは顕著でノドの筋肉にまで及ぶ。わたしはまだまだ元気よく朝まで吞みつづけることはできるが、ほかの連中はくたくたし萎びてしまうようだ。

 だが翌日のダメージはハンパではない。近頃は仕事よりも遊びのほうが疲弊する。一日出かけると次の日は家で休みたい。いや二日は必要かもしれない。遊びのための休養。次の日はバイクで遠出をする予定なのでそうはいかない。弱った胃腸を休めて、丸一日ゲームに興じて、夜には家で酒を呑んで、結局吞んで、素早く寝床につく。ある意味、最上の一日。


*憤怒

 今年のゴールデンウィークの真ん中に差し込まれた二日ばかりの出勤。休日前にすべての仕事らしい仕事をこなして、この二日はほとんどなにもせずに、ちょろっと業務をこなしてHuluでもみていようと企んでいたのに、急ぎの仕事が入っている。

 なんなら三月頭辺りから自分でスケジュールを立てて、この連休をしっかりぐうたら過ごそうとおもっていたのに、まったく想定外の業務。ぶすりとしてほとんど会話もせずに乗りきる。帰りは帰りで突然の雨に降られる。おまけにバイクの駐輪場のまえに犬のフン。なんという仕打ち。わたしの業はここまで深いものか。賽銭箱に投げ込んだ千円札の御利益はいずこへ。

 

*嫉妬

 くさくさしていても仕方ないので、どうにかして休みに食い込まないようにあと一日で仕事を終わらせる算段を考えていた。ベランダでタバコを吸っていたら負けるもんか負けるもんかという声がした。野球のユニフォームを着ている男の子が階段を駆け上がっていた。

 Hは早々に米国に帰ってしまった。次に会うときは何年後か。Yの一番上の子は春から中学生らしい。TとNが若い頃から手を貸していた会社は従業員が60人をこえたらしい。それぞれ取締役と部長というたいそうな役職をもっている。

 Hはグリンカードを取得してつぎは米国籍を狙うらしい。若い頃は毎日のようにあっていて、お金もないのでうちでサッカーゲームばかりやっていたHが、ダラスでオフィスを構えベンツに乗っているとおもうとなにかの冗談のようだ。

 

 みんな“将来”というものを見据えていて、いつの間にやらその将来が訪れている。そして進んでいる。わたしと彼ら、差がついた、とはおもわないけれど、それぞれが前に進んでいるようにおもえる。

 たまにああして顔を付き合わせて、吞んで、結局学生の頃と同じような会話ばかりをしているが、きっとたぶんお互いが合わせ鏡のようになっていて、似たような焦りを憶えたりしている。

 この先になにがあるのかとか、どうなるのだとか、なんなら人生とはなんて考え込むときりがないけれど、それぞれがそれぞれの不安や喜びを抱え込んで、あるいはそいつを活力にかえて、前に進んでいく。

 

 なにかと重なる部分が多かった連中なので、こうしておじさんになるまでくだを巻いていられるけれど、この先なにがあるかわかりはしない。わかりはしないが一生友だちであることに変わりはないだろう。間違いなく。

 欲張ったり慢心したり食べ過ぎたり怒ったりむらむらしたり嫉んだり怠けたり。そういう煩悩はたしかに油断ならないものなのかもしれないけれど、たまには堅いこといわずに業にまみれて遊びたくもなるし、それこそが人生のうるおいでもあるようにもおもえる。

 どうせみんなそれぞれがすぐに自分のポジションに戻って、首尾良く振る舞わなければならないのだから、そういう弱さが罪だなんていわずに、というか、まあ罪なら罪でかまわないので、時々はああして煩雑でぐうたらな時間を共有していきたい。これからも。時間の許す限りは。

 そんなことをおもいながら夕まぐれにベランダで子どもらをみていた。タバコをふかしてあと四日ある連休の予定をあれこれ考えていた。大きな声で叫ぶちびっ子にあわせてなんとなく呟いたりもした。負けるもんか負けるもんか。

 

 

今週のお題ゴールデンウィーク2018」

 

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 追記:

nagi1995.hatenadiary.com

 

高岡ヨシさん優秀賞受賞に寄せて、文章を書かせてもらいました。

よろしければこちらもお願いいたします。

*こちらのNという友だちとこの日記のNは無関係です。(アルファベットかぶってしましました。)